雑穀物語NEXT〚第6話〛 ミレイが描くMillet の夢

この物語は、雑穀の魅力について正しく、わかりやすく広めるために生まれた、雑穀の真実に挑戦する信実のヒューマンドラマです。雑穀の有資格者を中心に、皆様から寄せられた雑穀にまつわる疑問についての答えを探していきます。


ミレイ
「あけましておめでとうございます。」

グレオ
「うわー、ミレイちゃん、キレイだねー、着物似合うね!」


ミレイ
「ありがとう。毎年お正月は振り袖って決めてるの。」

グレオ
「とってもいいねー。着物もキレイだけど、ミレイちゃんって、名前も素敵だね、誰がつけたの?」

ミレイ
「ミレイって名前はね、おじいちゃんがつけてくれたの。ジャン=フランソワ・ミレーって画家知ってる?」

グレオ
「あっ、知ってる。教科書で見たことあるよ。確か落ち葉拾ってたよね。」


『落穂拾い』(オルセー美術館 所蔵)

ミレイ
「そう、その絵。それね、落ち葉でなく、落ち穂を拾っているんだけど、その絵がおじいちゃん大好きなんだって。それで、孫で最初の女の子が生まれたときには、ミレって名前にしたかったんだって。でも、ミレだと苗字と合わせた字画が良くなかったようで、ミレイって名前になったそうよ。」

グレオ
「そうなんだ、なんか、改めていい名前って思うね。」

ミレイ
「ありがとう。ミレーってフランス人なんだけど、雑穀のミレットと同じ表記“Millet”なの。だから、とても気に入ってるのよ。」

グレオ
「ホントだね。何か、ミレーって画家に興味出てきたよ。スマホで調べてみよっと。ピコピコ。すごい、山梨県の美術館にミレーの絵がたくさんあるんだって。フランスまで行かなくては、と思っていたのでびっくり。」

ミレイ
「そうなの。甲府市にある山梨県立美術館のミレー館ね。」

グレオ
「ミレーの絵のこと、もっと詳しく知りたくなった。スマホではわからない情報ある?」

ミレイ
「いいわよ。教えてあげる。私ね、名前の由来を知ってから、ミレーの絵のことたくさん勉強したんだから。」

グレオ
「へ~、勉強家だね。」

ミレイ
「それでね、雑穀研究会で発行している研究情報誌を見てたら、あの”そば学”の井上直人博士が『ミレーが描いた雑穀』って、ミレーの絵を分析している論文を見つけたのよ。」

グレオ
「えー、雑穀の研究誌に?」

ミレイ
「そうなのよ。ミレーって、農作業を描いた農民画家として有名で、約400点の油彩画のうち、農民主体の絵が100点ほどあるそうよ。ほかには『種をまく人』も有名よね。」


『種をまく人』(ボストン美術館、山梨県立美術館 所蔵)

グレオ
「本で見たことあるよ。」

ミレイ
「その論文ではね、『ソバの収穫、夏』の絵について、島立ての様子や、時代背景、描かれた地域などから、これが本当にソバであるのかなど、詳しく分析されているの。ソバって題名は、後から付けられたようなんだって。だから、ミレーがこの絵を描いた19世紀当時、フランスで35,000ヘクタールくらい栽培されていた、アワの可能性もあるって書いているのよ。」


『ソバの収穫、夏』(ボストン美術館 所蔵)

グレオ
「なるほどー。」

ミレイ
「ヨーロッパはムギの農耕文化だって思われているけど、中世・近世でも、アワやキビが普通に作られていたことを表しているかもしれない、可能性を感じる絵だってことがわかったのよ。」

グレオ
「おもしろいね~。」

ミレイ
「ほんと、ミレーの絵には、分析の仕方で雑穀が広がっていく夢があるのよ。名前の由来でもあるし、私の原点ね。」

グレオ
「へー、今度、山梨までミレーを見に行ってみよっと、僕も夢を探しに。フランスまでは行けないけど。」

ミレイ
「では、グレオくんに、参考本を紹介するね。『農民画家』ミレーの真実。山梨県立美術館で学芸員をされていた、ミレーにとても詳しい先生が書かれた本なのよ。休みの間にがんばって読んでね~。」

《解説》
山梨県立美術館の『種をまく人』は、ボストン美術館所蔵のものと同じ構図で、タッチが異なる形で描かれている貴重な絵画です。また、『落ち穂拾い、夏』も所蔵されています。教科書で見なれた絵ですが、改めてミレーについて知ると、世界の雑穀への扉が開き、19世紀当時のフランスにおける人々の生活や、雑穀のおかれた状況の想像がふくらみます。

参考論文
井上直人 (2015)「ミレーが描いた雑穀」(雑穀研究No.30), p36-43, 雑穀研究会.

参考書籍
井出洋一郎 (2014)『「農民画家」ミレーの真実』 NHK出版新書

参考サイト
種をまく 世界がひらく『山梨県立美術館』

登場人物紹介
  グレオ
神奈川県出身、文学部の大学2年生。趣味は映画観賞と食べること。スマホが離せない少し優柔不断な次男坊。ミレイはカフェのバイト仲間。

  ミレイ
料理と読書、そして雑穀が大好きな、東北の中山間地出身の女子大家政学部の3年生。雑穀エキスパート認定者。責任感が強く、負けず嫌い。

 

PAGE TOP