雑穀物語NEXT〚第33話〛 雑穀の在来種と栽培品種

この物語は、雑穀の魅力について正しく、わかりやすく広めるために生まれた、雑穀の真実に挑戦する信実のヒューマンドラマです。雑穀の有資格者を中心に、皆様から寄せられた雑穀にまつわる疑問についての答えを探していきます。


ミレイ
「グレオくん、これ見て! 雑穀クリエイターの梶川  愛 先生のお住まいの京都のお庭で、いつからかアマランサスが自生しているの。毎年、なーんにもしなくても、勝手に生えてきて成長してるってInstagramに投稿されているのよ。さすが雑穀、強いわよね。」

グレオ
「へ~、そうなんだ。雑草みたいだけど、雑穀なのか、見た目もエキゾチックだね。」

ミレイ
「そうよ、アマランサスの花言葉は、忍耐や不滅、不老不死とかなの、見た目のとおりよね。家の塀の小さな隙間からも出てきてるみたいで、すごいわ。10年以上前から毎年自然に生えてくるって書いてあったから、もう在来種って呼んでもいいかも。よくある “なんとか在来” のような名前をつけたらかわいいよね。」

グレオ
「そ-かー、在来種かぁ。。梶川先生の京都のお庭だから、“京都梶川在来”かな。なんか、由緒正しそうだし。あっ、そういえばこの間、ドライブの通りすがりで道の駅に寄ったら、栄養豊富な在来種の黒豆と書いてあったけど、在来種って、栄養が豊富なの?」

ミレイ
「う~ん、そうね。在来種はその名前から、力強い感じがあるわよね。でも、在来種だからといって、強く育ったり、含まれる栄養が豊富ということはないのよ。栄養が豊富かどうかは、食品分析センターとかで調べてみないとわからないと思うわ。」

グレオ
「そーか。でも在来種という言葉、なんか、栄養あって強そうな感じするね。」

ミレイ
「う~ん、そうね。在来種という言葉は、人が外から持ち込んできた “外来種” や、目的を持って育成された “栽培品種”と対義される種のことになるんだけど、何をもって “在来種” と呼ぶかは、定義がはっきりしてなくて、在来という言葉そのものが意味する地域や時間の範囲も統一されていないのが現状なの。」

グレオ
「へ~、そーなんだぁ。」

ミレイ
「在来種って使い方は、ある意味自由なのね。在来種の方が、エネルギーがあって、栄養も多いっていう人もいるけど、そのことを示す科学的なデータはなかなか見かけないわね、気持ちはわかるけど。栽培品種の良いところは、育種家の先生方が、なぜ新しい品種を作っていらっしゃるのか、考えたらすぐにわかるわ。」

グレオ
「どんな理由?」

ミレイ
「品種の育成っていうのは、それぞれ目的を定めて行っているの。それは、多収性であったり、耐倒伏性などの機械化適性であったり、虫害抵抗性などね。土壌に含まれる有害なカドミウム低吸収性品種の育成というのもあるわ。もちろん、よりおいしい品種を目指すってことも重要よね。」

グレオ
「なるほど、ということは、強くて、安全で、栄養があって、たくさん取れて、おいしい品種を目指しているということ?」

ミレイ
「そーいうことね。そうでないと時間と費用をかけて育種研究する意味ないからね。」

グレオ
「なるほど、そうか。ところで、雑穀では、最近新しい品種あるの?」

ミレイ
「そうね、最近では、、、例えばハトムギね。」

グレオ
「ハトムギに新品種ができたんだ。」

ミレイ
「そう、現在登録申請中なんだけど、“つやかぜ”っていう名前なのよ。名前の由来は、艷やかに光る穀実と倒れにくく風にそよぐイメージからきているのよ。」

グレオ
「そーなんだ。」

ミレイ
「昔、ハトムギはとてもたくさん作られていたんだけど、草丈は高く、害虫も付きやすくて、病気にもかかりやすかったの。それで、なかなか収穫量が安定しなくて、農家さんも大変になって、いつの間にか、ほとんど栽培されなくなっていったの。当時、岡山県で多く栽培されていて、粒が大きな “岡山在来” という名前の在来種が主流だったと思うわ。」

グレオ
「岡山在来かぁ。それで品種育成されたんだね。」

ミレイ
「そのとおりよ。」

グレオ
「ハトムギのつやかぜって、どんな目的で作られたの?」

ミレイ
「それはね、いま日本で栽培されている品種の多くは、“あきしずく”といって、東北南部から九州地方まで広く栽培されているの。病害虫に強くて、収量性を上げるために、短稈で機械栽培に向いている品種で、2007年に登録されてから今では、国内の約80%を占めているのよ。」

グレオ
「へ~、すごいんだね。」

ミレイ
「でも、昔の品種に比べて粒が小さめなの。だから、ハトムギ茶とかにはよく使われているんだけど、お料理などにハトムギ単品での利用は、あまり拡がっていないのよ。そこで、もっといろいろな用途で利用されるために、ハトムギの名前の由来でもある “鳩の胸” のような粒の大きな品種が求められてきたの。それで今回、開発に取り組まれたひとつの目的になったみたいよ。」


グレオ
「なるほど、そういうことか。いいこと運んでくれて、栽培品種って大切なことなんだね。」

ミレイ
「そうよね、でも、地域の作物は遺伝資源、文化財としての価値もあるから、昔から種継ぎされてきた在来種の保存、継承も大切だからね。生物多様性の尊重も重要だから、栽培品種、在来種、どちらがいいって比べることはできないのよ。それぞれ、良いところや、必要なことがあると思うわ。」

グレオ
「なるほど。どちらも大事ということだね。」

《解説》
宮崎県椎葉村や、徳島県にし阿波地域の世界農業遺産などで古くから伝わる雑穀の在来種は、長い年月でその地域の気候に適した形質に変化し、人々の生活に密接に関係し、受け継がれてきた文化財、遺伝資源です。また、現在、イノベーション事業で取り組んでいる、短稈、多収、機能性成分含有、おいしさ、使いやすさなど、目的を持った雑穀アワの新品種開発など、どちらも雑穀の普及には大切な活動であり、一方に偏ることなく、そのバランスある対応が重要と考えています。

参考文献
本田望ら(2021)「穂肥窒素施用がハトムギの乾物生産,収量および収量構成要素に及ぼす影響」(日本作物学会四国支部会報) 58:p32-33
井畑善心ら(2021)「異なる栽植密度で栽培したハトムギの乾物生産,収量および収量構成要素に関する品種間比較」(日本作物学会四国支部会報) 58:p34-35

参考書籍
西川芳昭編著 (2012)『生物多様性を育む食と農』コモンズ

参考サイト
農研機構『ハトムギ変種の品種一覧』
雑穀クリエイター梶川 愛さんInstagram『雑穀専門家 zakkoku-megumi』

登場人物紹介
  グレオ
神奈川県出身、文学部の大学2年生。趣味は映画観賞と食べること。スマホが離せない少し優柔不断な次男坊。ミレイはカフェのバイト仲間。

  ミレイ
料理と読書、そして雑穀が大好きな、東北の中山間地出身の女子大家政学部の3年生。雑穀エキスパート認定者。責任感が強く、負けず嫌い。

 

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