雑穀物語NEXT〚第30話〛 古代米のロマンと軌跡と現実


ミレイ
「グレオくん、お米の遺伝子解析についてだけど、お米って、遺伝的に見て、いろいろな種類があるのよね。インディカ米やジャポニカ米って聞いたことある?」

グレオ
「お米の種類? サフランライスは知っているけど。」

ミレイ
「ちょっとだけ違うよ(笑)。お米、つまりイネの基本から話すね。イネって、世界でたくさん作られていて、コムギとトウモロコシと並んで、世界三大穀物のひとつよね。分類はイネ科イネ属で、野生イネと栽培イネに分かれているの。野生のイネが食糧として利用できるようにって、ずっと昔の人たちが栽培化してくれたの。それが栽培イネね。野生イネはたくさん種類があるんだけど、栽培イネは、アジアイネとアフリカイネの2種に分かれているわ。今、世界で栽培されている多くはアジアイネで、学名は、Oryza sativa っていうのよ。


グレオ
「ほー、そーか、そーなのか。いつものお米は、もと野生のお米だったんだね。それで、野生イネと栽培イネって、何がどう違うの?」

ミレイ
「栽培イネは、野生イネに比べて草丈が低く、穂が大きいのよ。収穫しやすくて、たくさん実がなるってことね。また、野生イネは、種が自然に地面に落ちるのに対し、栽培イネはすぐに落下しないのよ。せっかく実っても、勝手に落下してしまうと収穫できないよね。これを脱粒性の変化といって、作物の種子を食糧にするためには絶対必要なことね。」

グレオ
「そーだよね、どんぐりなら、コロコロころがっても拾えるけど、お米は無理だね。」


ミレイ
「それで、アジアイネは、野生イネからインディカ種と熱帯ジャポニカ種、そして、温帯ジャポニカ種に分かれるのよ。インディカ種は、細長いタイ米など、熱くて雨量の多い地域のお米で、深い水田で作られているの。イネ全体の8割くらいがこのインディカのお米なのよ。熱帯ジャポニカ種は、畑で作られるお米、陸稲ね。そして、温帯ジャポニカ種は水田で作られるお米で、日本のお米はこの種類なのよ。」

グレオ
「なるほど。」

ミレイ
「それで、熱帯ジャポニカ種の祖先種から、インディカ種や温帯ジャポニカ種が分かれてできたことがわかっているんだけど、その栽培化の過程で粒の色も変化してきたことが遺伝子解析で証明されたの。」

グレオ
「へ~、どのように??」

ミレイ
「実は、野生のイネってすべて赤い色なの。でも、イネの在来種はほとんど白米なので、長い歴史で赤米から白米になったり、一部は赤米で残ったってことなのよね。その原因となる遺伝子もわかっていて、その遺伝子の変異によって、赤い色の色素が作られない品種、つまり白米ができたってことね。種類でいうと、熱帯ジャポニカ種の祖先種の変異で白米になって、そのままインディカ種や温帯ジャポニカ種に受け継がれていったわ。でも、赤米の遺伝子は、白米に比べて特徴が現れやすい顕性遺伝子なので、赤い色のお米も残りながら現在に至っているというわけ。明治時代より前には、赤い色の穂が実っていた田んぼがたくさんあったのよ。」

グレオ
「そうか、赤米から白米か。」

ミレイ
「それで、黒米なんだけど、これは、熱帯ジャポニカ種で起こった変異なの。」

グレオ
「赤米より後なんだ。」

ミレイ
「そうよ。お米が黒くなるのは、アントシアニンを作るための複数の遺伝子を働かせている、“Kala4遺伝子” の変異であることが特定されたのよ。この遺伝子の働きを制御する配列に起こった変異によって、アントシアニンを作る遺伝子が働いて、黒いお米ができるようになったわ。その後、自然交配によって、インディカ種にも移って広がったことも分かったのよ。」

グレオ
「ほー。」

ミkレイ
「図にすると、こんな感じね。遺伝子解析ってほんとすごいのよね。」


イネの栽培化と関連遺伝子 (井澤毅「遺伝子の変化から見たイネの起源」を参考に作図)

グレオ
「なるほど、ということは、、、」

ミレイ
「そうよ、お米の祖先、野生イネは赤い色のお米で、そのあと栽培化の過程の遺伝子の変異で白いお米ができて、ほぼ同じ時期に黒いお米も出来たってことよ。」

グレオ
「へ~、そーなのか。」

ミレイ
「そう、それで、古代中国の皇帝が食べてたとの記録のある黒米は、インディカ種だったようなの。でも、今の日本でたくさん作られている温帯ジャポニカ種の黒米は、この時のお米の流れではなく、近代育種によって作られた品種ということね。だから、赤米は白米の元祖ともいえるけど、黒米は白米の元祖ではないわね。遺伝子の変異によって、白米から黒米ができた可能性の方が大きいわ。」

グレオ
「ふ~ん、そうか、そーなのか。じゃあ、黒米の原因遺伝子がわかったってことは、これからも新しい黒米をどんどん作れるってこと?」

ミレイ
「そうね。今、私たちが食べているおいしいブランド米も、遺伝子技術を使った育種方法、いわゆるゲノム育種で、全部、黒い色のお米にすることができるわ。でも、やっぱり、おいしいお米は、そのまま白い色でいいけどね。」

グレオ
「だね! 銀シャリって、やっぱり白米だよね。お米が全部黒くなると困る。。ところで、そもそもなんだけど、最近育種された黒米が “古代米”って呼ばれてる理由って何かあるの? 」

ミレイ
「そうね。それについては、古代イネの研究と共に、ある有名な本の記述表現が関係しているわ。それについては、また今度ね。」

グレオ
「リョーカイ!」


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