雑穀物語NEXT〚第30話〛 古代米のロマンと軌跡と現実


グレオ
「改めて “衣食住院正子さまの部屋” 動画を見たんだけど、正子さまが古代米は、“昔栽培されたお米と特徴が似ているお米”って意味で使われているって説明したら、ネコ、いや、執事のセバスチャンが、回りくどい言い方!って言ってたよ。どういうことなんだろうか。」

ミレイ
「そう、一般的に使われているいわゆる “古代米” の紹介文ね。お米関係の団体でも紹介されていることで、農林水産省の “消費者の部屋” のこどもそうだんでも『古代のイネの品種が持っていた特色を色濃く残したイネ』と説明しているわ。」

グレオ
「そーなんだ。」

ミレイ
「それで、その記述が書かれているのは、この本よ。」


グレオ
「赤米、紫黒米、香り米、古代米の品種、栽培、加工、利用、、なるほど、古代米について書かれている本なんだね。2000年の発刊か、平成12年だね。」

ミレイ
「そう、平成7年度までのスーパーライス計画が終わって、その成果として、どんどん新しい黒米や赤米品種が生まれていたときよ。それまで、黒米や赤米についての新しい情報をまとめた本がなかったの。とてもわかりやすく書かれている本なのよ。」

グレオ
「ほー。」

ミレイ
「この本では、古代米とは『昔のイネの特徴を色濃く残す品種群』と説明しているのよ。昔のイネの特徴として、現在のイネに比べて、草丈が高く、倒れやすく、収量が低く、芒が長く、脱粒性や種子休眠性があるって書いているのだけど、最近作られた有色米の品種は、それらが改良されてきているからあまり当てはまらないわね。でも、この “色濃く残す”って表現が拡大解釈されて、色のついたお米を “古代米”って呼ぶようになったのかもって思うわ。」

グレオ
「そうかぁ。」

ミレイ
「そう、でも勘違いしてはならないのは、本のあとがきやその後の論文等でも繰り返し説明されてるんだけど、今流通している、いわゆる古代米は、商品名としての呼び方で、学術的な意味での古代米と分けて考えないといけないのよ。」

グレオ
「じゃあ、学術的な意味の古代米ってなに?」

ミレイ
「それは、この本に書かれていることなのよ。」


グレオ
「ほー。日本の古代米か。籾の写真も古そうだね。」

ミレイ
「この書物にあるとおり、学術的な古代米っていうのは、古代の遺跡から出土したり、古代の資料に記されている、お米や籾のことね。日本で近代的なイネの品種改良が行われたのは明治37年からなの。だから、その後に育成されたイネはもちろん古代米とは言わないし、江戸時代や明治期、戦前までに作られていたイネは、在来イネっていうのが正しい言い方ね。」

グレオ
「なるほど。」

ミレイ
「古代米って言葉は、力強くて、栄養価が高いってイメージがあるので有色米の紹介で使われているけど、本当の古代米は再現できないので、実際には今の育成されたお米と比較できないわ。だから、きちんとした学術論文で、今栽培されている黒米や赤米のことを古代米 (ancient rice) って表現することはないのよ。」

グレオ
「そうか、、なんか、ロマンがなくなったね。」

ミレイ
「そんなことはないわ。 “古代米” という言葉だけが先行してしまうと、育種の先生方がおいしくて、作りやすくなるように、苦労して育成された、有色米それぞれの品種の本当の良さが隠れてしまうかもしれない。だから、私は、そのことも理解した上で、黒米や赤米の魅力をきちんと伝えていきたいって、思うのよ。」


グレオ
「うんうん。」

ミレイ
「雑穀もそうだけど、やっぱり、いろいろな色や味わい、栄養のあるお米を混ぜて食べるって、楽しいしね。中国の古い文献にもあるように、黒米が健康のために食べられてきたのは間違いないので、これからもずっと、大切に育てられた、おいしい有色米や雑穀を食べ続けていくわ。稲作の長い歴史と、人々の食を守るために続けられてきた育種、そして、遺伝子の世界、それぞれにロマンを感じながらね。」

グレオ
「そういうことだね。古代から “グレオの部屋” に無事帰還しました~。」

《解説》
かつて、庶民のお米として栽培されていた赤米は、栽培しづらい、おいしくないお米の代名詞として排除されてきた歴史があります。戦後、高度成長に合わせて、食生活も大きく変わり、ごはん中心から、肉や魚などのおかず中心へ、また、一汁一菜から、一汁三菜が当たり前のように食卓に並び、結果としてお米の消費が急激に減少してきました。そのような中、平成元年からのスーパーライス計画で、消費拡大のために様々な形質をもったお米が開発され、栄養や機能性に富み、おいしくて作りやすい、赤米や黒米の新品種も数多く誕生しました。古代から受け継がれてきた稲作の歴史、そして、現代の育種研究者による様々な努力や苦労を、有色米=古代米という一律した表現で埋もれさせないよう、有色米の魅力や価値を正しく発信していきたいと思います。

紹介YouTube
農林水産省公認チャンネル『BUZZ MAFF ばずまふ』

参考サイト
農研機構『食用作物/稲種 (Oryza sativa L.) の品種一覧』
農研機構九州沖縄農業研究センター『稲育種グループ 育成品種・系統情報提供ページ』
農林水産省『消費者の部屋 こどもそうだん』

参考文献
農林水産省農林水産技術会議研究開発課 (1993)「スーパーライス計画と今後の展開」(日本醸造協会誌) 88(7), p.494-498
猪谷富雄 (2012)「古代米から稲の世界へ」(日本醸造協会誌) 107(10), p.719-732
小林和幸 (2004)「新潟県で開発した新形質米品種とその普及状況」(育種学研究) 6(4), p.215-224, 日本育種学会
日原誠介ら (2005)「赤米の水稲新品種‘あかおにもち’の育成」(岡山県農業総合センター農業試験場研究報告) 23号, p.1-8
井澤毅 (2017)「遺伝子の変化から見たイネの起源」(日本醸造協会誌) 112(1), p.15-21
猪谷富雄・小川正巳 (2004)「わが国における赤米栽培と最近の研究情勢」(日本作物学会紀事) 73(2), p.137-147

参考書籍
猪谷富雄 (2000)『赤米・紫黒米・香り米 「古代米」の品種・栽培・加工・利用』農文協
日本古代稲研究会編 (2003) 『古代稲は生きている -日本古代稲研究会 十五周年記念誌』弦書房
佐藤敏也 (1971)『日本の古代米』雄山閣出版

参考資料
小林和幸 (2009) 「地域活性化を目指した新規開発稲品種の効果的な導入と普及のための実証的研究」新潟県農業総合研究所研究報告 (第10号)
生物研プレスリリース (2015) 「古代米の起源に迫る!-紫黒米の育種が容易になります-」国立研究開発法人農業生物資源研究所富山県農林水産総合技術センター

登場人物紹介
  グレオ
神奈川県出身、文学部の大学2年生。趣味は映画観賞と食べること。スマホが離せない少し優柔不断な次男坊。ミレイはカフェのバイト仲間。

  ミレイ
料理と読書、そして雑穀が大好きな、東北の中山間地出身の女子大家政学部の3年生。雑穀エキスパート認定者。責任感が強く、負けず嫌い。

 

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