産地、ストーリー、売場提案までを設計する

雑穀ブレンドは、原料を組み合わせて完成するものではありません。
基本設計を行ったうえで、もう一つ大切になるのが、その価値をどのように伝えるかという視点です。
どれだけ考えられたブレンドであっても、売場や商品説明で価値が伝わらなければ、消費者には選ばれにくくなります。
一方で、価値の伝え方を間違えると、
「なんとなく健康に良さそう」
「種類が多く入っている」
「有名な人が監修している」
といった表面的な印象だけで受け止められてしまうこともあります。
雑穀ブレンドを継続的に選ばれる商品にしていくためには、原料の選定だけでなく、産地、ストーリー、監修・プロデュース、売場での伝え方、食品表示、そして第三者評価の活用までを含めて、価値を整理していく必要があります。
「良い原料を使っている」だけでは伝わらない
雑穀ブレンドの商品説明では、
「国産原料100%使用」「○種類の雑穀を配合」「○○産限定のブレンド」
といった表現がよく使われます。
もちろん、これらは大切な要素です。
国産原料や産地指定の原料には安心感があり、希少性のある雑穀には商品価値を高める力があります。
また、多様な雑穀を組み合わせることで、彩り、食感、栄養面の印象を高めることもできます。
しかし、それだけで十分に伝わるとは限りません。
同じ国産雑穀を使ったブレンドでも、毎日の雑穀ごはんとして提案するのか、美容や健康を意識する層に向けるのか、子どもや高齢者にも食べやすい商品として伝えるのか、地域産品として発信するのかによって、伝え方は変わります。
原料の価値は、商品説明の中で「消費者にとっての価値」に置き換えられて、はじめて伝わりやすくなるのです。
おいしさは、もっとも大切な価値である
雑穀ブレンドを考えるうえで、忘れてはならないのが「おいしさ」です。
健康感、栄養、産地、ストーリー、希少性など、雑穀ブレンドには多くの価値を持たせることができます。
しかし、最終的に食べ続けてもらえるかどうかは、やはり「おいしさ」が大きく左右します。
特に主食としての雑穀ごはんは、毎日の食卓に近い存在です。
一度食べて「食べにくい」「香りが強い」「家族が食べてくれない」と感じられると、どれだけ良い原料を使っていても、継続にはつながりにくくなります。
反対に、
「白米に混ぜても違和感が少ない」
「食感が楽しい」
「彩りがきれい」
「冷めてもおいしい」
「家族で食べやすい」
と感じてもらえれば、雑穀ブレンドは日常の食卓に入りやすくなります。
雑穀ブレンドのおいしさは、単に味だけではありません。
炊き上がりの見た目、香り、粒感、もちもち感、噛みごたえ、白米とのなじみ、料理との相性などが総合的に関わります。
また、外食、中食、弁当、給食、社員食堂、ホテル朝食などでは、炊飯後の保温状態や冷めたときの食感、主菜や副菜との相性も重要になります。
雑穀ブレンドは、健康のために我慢して食べるものではなく、おいしいから続けられるものであるべきなのです。
その意味で、おいしさは商品価値の中心に置くべき要素です。
産地は、価値を伝える重要な入口になる
雑穀は、産地との結びつきを伝えやすい素材です。
アワ、キビ、ヒエ、ハトムギ、ソルガム、キヌア、アマランサスなど、それぞれの雑穀には栽培されてきた地域や、生産者の取り組みがあります。
また、気候、土壌、栽培技術、地域の食文化なども、商品の背景として大切な要素になります。
ただし、産地を伝える場合も、単に地名を表示するだけでは十分ではありません。
大切なのは、
なぜその産地の原料を使うのか。
その産地でつくられることに、どのような意味があるのか。
商品全体の価値と、産地の特徴がどう結びついているのか。
この点を整理して、示していくことです。
たとえば、地域の雑穀を使ったブレンドであれば、
「地域の農業を応援する商品」
「古くから地域の食文化と関わってきた食材を、日常の食卓に届ける商品」
「地元の研究機関が開発した新品種を活かした新提案」
として伝えることができます。
また、外食や中食、給食、社員食堂などで使用する場合には、
「地域食材を取り入れたメニュー」
「産地とのつながりが見えるごはん」
「食育や地域理解につながる一膳」
として展開することも考えられます。
産地は、商品の背景を伝える大切な入口です。
しかし、産地名だけに頼るのではなく、その産地と商品価値をどう結びつけるかが重要になります。
ストーリーは、事実にもとづいて整理する
雑穀ブレンドには、ストーリーを持たせやすい特徴があります。
開発のきっかけ、生産者との出会い、地域との関わり、健康や食生活への想い、料理人や管理栄養士の提案、数々の試作など、商品背景として伝えられる要素は多くあります。
ただし、ストーリーは、強く打ち出せばよいというものではありません。
消費者に伝わるストーリーには、事実にもとづいた説得力があります。
反対に、商品そのものと結びついていないストーリーや、過度に情緒的、強調された表現は、不信感を生み、かえって伝わりにくくなることがあります。
雑穀ブレンドで伝えるべきストーリーは、たとえば次のようなものです。
なぜ、このブレンドをつくったのか。
誰に食べてもらいたいのか。
どのような食卓や売場を想定しているのか。
どの原料に、どのような役割を持たせているのか。
どのような試作や調整を行ったのか。
どのようにおいしさや食べやすさを確認したのか。
このような情報が整理されていると、商品説明や売場POP、チラシ、ホームページ、メニュー説明などにも展開しやすくなります。
ストーリーは、商品の雰囲気を良くするための飾りではありません。
商品設計の考え方を、消費者や取引先にわかりやすく伝えるための手段です。
監修・プロデュースは、商品価値と結びついているか
雑穀ブレンドでは、料理研究家、管理栄養士、専門家、著名人、地域のキーパーソンなどが監修・プロデュースに関わることがあります。
有資格者など、協会関係者も多くの商品に関わっています。
監修者やプロデューサーの存在は、商品に信頼感や話題性を加える要素にもなります。
特に、注目度を高めたり、商品説明に説得力を持たせたりするうえでは有効です。
しかし、監修・プロデュースの名前だけで商品が継続的に選ばれるわけではありません。
重要なのは、その人が関わることで、商品のどの価値が高まっているのか。
味、使いやすさ、食べ方提案、健康感、地域性などに、どのように反映されているのか。
という点です。
たとえば、料理研究家の監修であれば、家庭でおいしく炊ける配合、料理への展開、食べ続けやすさが伝わる必要があります。
管理栄養士の監修であれば、栄養面の考え方や、日常の食生活に取り入れる視点が整理されていることが大切です。
地域の生産者や料理人が関わる場合には、産地との関係や、地域食材としての活用提案が見えていると、商品価値が伝わりやすくなります。
監修・プロデュースは、商品に名前を添えることではありません。
商品設計や伝え方に、専門性や経験がどう活かされているかを示すことが重要です。
有名であることだけに頼るのではなく、商品価値との結びつきを丁寧に示すことが大切です。
売場では「特徴」より「選ぶ理由」を伝える
雑穀ブレンドの売場では、商品特徴をたくさん並べたくなります。
大切なのは、消費者が短い時間で、自分に合う商品だと感じられることです。
そのためには、商品の特徴をそのまま並べるのではなく、選ぶ理由に置き換えることが必要です。
たとえば、
「初めての方にも食べやすい、くせの少ない雑穀ごはん」
「白米に混ぜるだけで、彩りと食感を楽しめるブレンド」
「家族で続けやすい、やさしい味わいの雑穀ミックス」
「地域の雑穀を、毎日の食卓で楽しむ一膳」
といった表現です。
外食や中食であれば、
「雑穀ごはんに変更できます」だけでなく、
「食感と彩りを楽しめる雑穀ごはん」
「主菜のおいしさを引き立てる、食べやすい雑穀ごはん」
と伝えることで、選ばれやすくなります。
売場やメニューで伝えるべきことは、商品のすべてではありません。
その場で選ぶために必要な価値を、わかりやすく示すことです。
一括表示は、商品の信頼を支える土台
雑穀ブレンドの価値を伝えるうえで、もう一つ忘れてはならないのが、食品表示です。
どれだけ良い原料を使っていても、産地にこだわっていても、開発ストーリーが魅力的であっても、一括表示に誤りがあれば、商品への信頼は大きく損なわれます。
特に雑穀ブレンドは、複数の穀物、豆類、ハトムギ、キヌア、アマランサスなどを組み合わせることが多く、原材料名の順序、原料原産地、アレルゲン、内容量、賞味期限、保存方法、製造者・販売者、栄養成分表示など、確認すべき項目が多くなります。
さらに、商品価値を伝えようとするほど、表示上の注意点も増えていきます。
たとえば、
「国産」、「○○県産」、「有機」、「オーガニック」、「無農薬」、「農薬不使用」
「栄養豊富」、「美容に良い」、「健康に良い」
といった表現は、消費者に強く伝わる一方で、法令やガイドライン、根拠との整合性を確認しなければなりません。
特に「無農薬」という表現は、現在の表示実務においては慎重に扱う必要があり、安易に使用すると誤認を招くおそれがあります。
農薬を使用していないことを伝えたい場合でも、どの期間に、どの農薬を、どの基準で使用していないのかを整理し、適切な表現にする必要があります。
また、「有機」「オーガニック」といった表現も、制度上の基準や認証との関係を確認せずに使うことはできません。
雑穀ブレンドの商品価値は、パッケージの表面だけで伝えるものではありません。
一括表示を含めた表示全体が正しく整っていることによって、はじめて安心して選ばれる商品になります。
表示は、単なる事務的な確認事項ではありません。
商品づくりにおける信頼の基礎であり、雑穀業界全体の信用にもかかわる重要な設計要素です。
日本雑穀アワードにおける評価の視点
日本雑穀協会では、日本雑穀アワードを通じて、これまで多くの雑穀商品を評価してきました。
ブレンド雑穀において評価される商品は、単に珍しい原料を使っていたり、穀数が多いものだけではありません。
大切なのは、商品としての完成度です。
具体的には、炊き上がりの見た目、香り、食感、味わい、白米とのなじみ、食べ続けやすさ、利用場面との適合性、表示や説明のわかりやすさなどが総合的に関わります。
雑穀ブレンドは、原料の足し算ではなく、食べる場面を想定した設計の結果として評価されます。
たとえば、健康感を打ち出す商品であっても、日常的に食べにくければ継続されにくくなります。
華やかな見た目の商品であっても、主食としての食べやすさが弱ければ、利用場面が限られます。
高価格帯の商品であれば、その価格に見合う原料背景、味わい、提案性が必要になります。
また、どれだけ商品コンセプトが優れていても、表示や説明が不十分であれば、商品の信頼性は弱くなります。
評価の視点は、商品を点数化するためだけのものではありません。
開発段階で、商品の強みと課題を確認するための視点でもあります。
継続的に選ばれる商品にするために
雑穀ブレンドは、一度購入してもらうことも大切ですが、それ以上に大切なのは、継続的に選ばれることです。
そのためには、話題性だけでなく、食べ続けられるおいしさ、使いやすさ、納得感が必要になります。
初回購入は、パッケージや売場の印象で生まれることがあります。
しかし、再購入は、実際に食べた後の満足感によって決まります。
「炊きやすかった」
「おいしかった」
「家族が食べてくれた」
「白米に混ぜても違和感が少なかった」
「食卓の印象が少し良くなった」
「続けられそうだと感じた」
こうした体験が、雑穀ブレンドの価値を支えます。
だからこそ、商品開発では、原料や栄養面だけでなく、実際に使う人の感覚を丁寧に考える必要があります。
売場提案でも、商品の特徴だけでなく、食べ方、続け方、使う場面をあわせて伝えることが重要です。
継続的に選ばれる商品には、理由があります。
それは、原料の良さだけではなく、おいしさ、使いやすさ、わかりやすさ、信頼感がそろっていることです。
雑穀ブレンドの価値は、設計と伝え方で決まる
雑穀ブレンドには、さまざまな可能性があります。
日常のごはんを少し豊かにする。
地域の農産物を食卓につなげる。
外食や中食のメニュー価値を高める。
健康や食生活への関心に応える。
生産者、企業、流通、消費者を結びつける。
誰に向けた商品なのか。
どのような場面で食べてもらうのか。
どの原料に、どのような役割があるのか。
おいしさを、どのように設計しているのか。
産地やストーリーを、どう商品価値に結びつけるのか。
売場やメニューで、どのように選ぶ理由を伝えるのか。
表示は、信頼される内容として正しく整っているのか。
これらを整理してはじめて、雑穀ブレンドは「良さそうな商品」から、「選ばれる理由のある商品」へと変わっていきます。
雑穀ブレンドの価値は、設計するだけで終わりではありません。
その価値を、食べる人、売る人、使う人に伝わる形にしていくこと。
そして、実際に食べておいしいと感じられ、安心して選ばれ、また食べたいと思ってもらえること。
そこに、これからの雑穀ブレンドの商品開発や提案における、大切な視点があるのです。
関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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