原料を足す前に、誰に何を届けるかを決める

雑穀ブレンドを考えるとき、「どの雑穀を入れるか」から始めてしまうことがあります。
色を出すために黒米や赤米を入れる。
健康感や話題性を伝えるために、キヌアやアマランサスを入れる。
食物繊維の印象を伝えるために、押麦やもち麦などの大麦類を入れる。
食感や満足感を出すために、豆類を加える。
もちろん、それぞれの原料には魅力があります。
しかし、雑穀ブレンドは、良さそうな原料を足していけば良い商品になるわけではありません。
特に外食、弁当、スーパー惣菜、給食、社員食堂、ホテル朝食などで提供される雑穀ごはんは、多くの人にとって、雑穀との大切な接点になります。
その一膳を食べたときに、「おいしい」「食べやすい」「また食べたい」と感じてもらえれば、雑穀への印象は良いものになります。
反対に、硬い、香りが気になる、白米となじまない、冷めると食べにくいと感じられてしまうと、その一度の体験だけで、「雑穀ごはんはおいしくない」という印象につながってしまうことがあります。
雑穀ごはんを定期的に食している人の割合は、おおよそ10~20%にとどまっていると見ています。
「雑穀」という言葉の認知度は向上していますが、この割合はそれほど変化していないように感じています。
この割合を広げていくためには、雑穀の栄養価や健康イメージを伝えるだけでは十分ではありません。
近年は、玄米や発芽玄米、お米に混ぜて炊く、いわゆる「健康米」など、健康を意識した主食の選択肢も多く見られます。
その中で雑穀ごはんを選んでもらうためには、健康感だけでなく、何より「おいしい」と感じてもらえることが重要です。
まず、食べた人が、「おいしい」「これなら続けられる」「この価格なら納得できる」と感じられる雑穀ごはんを提供することが不可欠です。
だからこそ、雑穀ブレンドは、「雑穀を混ぜれば健康的に見える」「雑穀らしい色がつけばよい」「安く使えればよい」という発想だけで設計してはいけません。
雑穀ブレンドの基本設計とは、誰に向けるのか、何を伝えるのか、どの場面で食べてもらうのか、どの価格なら続けてもらえるのかを考えることです。
私たちは、「雑穀」という価値ある食材が、雑穀ごはんとして日常の食卓に広がり、定期的に食べる人が、少しでも増えていくことを願っています。
健康感だけでは、雑穀は続かない
雑穀には、健康的、自然派、栄養感、食物繊維、彩りといったイメージがあります。
そのため、外食や弁当、スーパー惣菜などでは、白米に雑穀を加えることで、商品全体に健康的な印象を出しやすくなります。
これは、雑穀の大きな魅力です。
しかし、健康感は入口であって、それだけで継続的に選ばれるわけではありません。
食べたときにおいしくなければ、どれだけ健康的に見えても、次につながりません。
特に、外食や弁当で提供される雑穀ごはんは、消費者にとって「雑穀の代表」として受け止められることがあります。
本来は、そのお店や商品で提供された一膳の印象であっても、食べた人には、「雑穀ごはんはこういうもの」として記憶されてしまうことがあります。
だからこそ、雑穀を提供する側には、単に健康感を演出するだけでなく、雑穀そのものの印象を良くする一膳を提供する意識が必要です。
雑穀ごはんを広げるうえで大切なのは、食べる機会を増やすことだけではありません。
その一膳を、「おいしい雑穀ごはん」として提供することです。
安ければよい、では価値が残らない
外食、弁当、スーパー惣菜などでは、原価管理がとても重要です。
そのため、雑穀ブレンドにも、価格を抑えやすいことが求められます。
押麦、はだか麦、もち麦などの大麦類は、比較的価格を抑えやすく、白米とのなじみも良いため、活用しやすい原料です。
毎日提供するメニューや、弁当、給食、社員食堂などでは、こうした大麦類をうまく使うことで、価格と食べやすさのバランスを取りやすくなります。
一方で、キビやアワ、キヌア、アマランサスなどの小粒雑穀、特に国産のものは、比較的価格が高くなりやすい原料です。
しかし、少量でも健康感や特別感を伝えやすく、商品全体の印象を高める役割を持たせることができます。
ハトムギ、黒米、赤米などは、雑穀らしさに加え、美容や健康感、彩りを伝える原料として活用しやすいものです。
大切なのは、高い原料が良い、安い原料が悪いということではありません。
どの価格で、どの価値を届けるのか。
この視点が必要です。
安い原料だけでまとめても、食べた人に魅力が伝わらなければ、雑穀ごはんの価値は残りません。
反対に、高価な原料を多く入れても、価格に見合うおいしさや納得感がなければ、継続して使われる商品にはなりにくくなります。
雑穀ブレンドでは、価格も設計の一部です。
外食・弁当・惣菜では、炊きたてだけを見てはいけない
家庭で炊きたてを食べる雑穀ごはんと、外食や弁当、惣菜で提供される雑穀ごはんでは、求められる条件が異なります。
外食では、提供までの保温時間があります。
弁当では、冷めた状態で食べられます。
スーパー惣菜では、売場に並んでから食べるまでに時間があります。
給食や社員食堂では、大量炊飯で安定して炊けることが求められます。
ホテル朝食では、見た目の印象と食べやすさの両方が大切になります。
炊きたてではおいしく感じても、時間が経つと硬くなる。
冷めるとパサつく、色が変わる。
保温後に香りが気になる。
白米との混ざり方にムラが出る。
豆類やハトムギの粒感が強く残り、食べにくく感じられる。
こうしたことが起こると、せっかく雑穀を入れても、食べる人には良い印象が残りません。
また、調理現場にとって扱いにくいブレンドは、継続して採用されにくくなります。
水加減が難しい。
炊飯にムラが出やすい。
浸水時間が長く必要になる。
炊飯後の色や食感が安定しない。
こうした課題があると、外食や中食の現場では使いづらくなります。
業務用の雑穀ブレンドでは、炊きたてのおいしさだけでなく、保温後、冷めた状態、大量炊飯での安定性まで含めて考えることが重要です。
何を入れるか、どのような状態で使うか
雑穀ブレンドでは、何を入れるかだけでなく、どのような状態で使うかも大切です。
特に、粒の大きな豆類やハトムギは、粒のまま使うのか、ひきわりにするのかによって、食感や食べやすさが大きく変わります。
粒のまま使えば、見た目の存在感や噛みごたえを出しやすくなります。
一方で、弁当や惣菜では、冷めたときに硬さが気になったり、食べる人によっては違和感につながる場合があります。
ひきわりにすると、白米になじみやすくなり、食べやすさは高まります。
ただし、粒としての存在感はやや控えめになります。
このように、粒のまま使うのか、ひきわりにするのか、またどのような加工状態にするのかによって、炊き上がりのなじみやすさ、食べやすさを調整することができます。
つまり、雑穀ブレンドでは、原料名だけで判断してはいけません。
粒の大きさ、加工状態、炊き上がりの食感、白米とのなじみ方まで含めて設計する必要があります。
同じ雑穀でも、味わいは同じではないことを理解する
雑穀は、同じ名前の原料であっても、品種や産地、加工状態によって印象が変わります。
同じ大麦類でも、押麦や丸麦、米粒麦などの精麦加工状態、同じもち麦であっても、品種の違いによって、食感や炊き上がりの印象が異なります。
同じハトムギでも、品種の違いによる粒の大きさや加工状態によって、噛みごたえや白米とのなじみ方が変わります。
同じ黒米や赤米でも、品種や気象条件によって、色の出方や香り、食感には違いがあります。
キヌアやアマランサスも、粒の大きさ、産地、処理状態などによって、炊き上がりの印象が変わることがあります。
そのため、雑穀ブレンドは、原料名だけを並べて考えるものではありません。
実際に炊いて、食べて、提供される場面を想定して確認することが必要です。
特に、外食や弁当、惣菜で使う場合には、炊き上がり直後だけでなく、時間が経った状態での食感や香りも確認する必要があります。
雑穀ブレンドの完成度は、配合表だけでは判断できません。
食べる人が口にする状態で、おいしいと感じられるかどうかが大切です。
作り手のこだわりを、食べる人の価値に変える
雑穀ブレンドには、作り手のこだわりが表れます。
しかし、作り手が良いと思う商品と、食べる人が「おいしい」「続けやすい」「買いやすい」と感じる商品は、必ずしも同じではありません。
雑穀ごはんを日常的に食べる人を増やしていくためには、健康感や彩りだけではなく、おいしさ、食べやすさ、続けやすさ、価格、そして調理現場での扱いやすさまで含めた設計が必要です。
雑穀ブレンドは、原料の足し算ではありません。
作り手のこだわりが、食べる人にとっての価値になっているか。
さらに、使う現場にとって扱いやすい設計になっているか。
その両方を考えることが、雑穀ブレンドの基本設計です。
次回は、こうして設計した雑穀ブレンドの価値を、産地、ストーリー、監修・プロデュース、売場での伝え方、日本雑穀アワードにおける評価の視点などから整理していきます。
関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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