知見を知識で終わらせず、商品・地域・食卓に活かすために

雑穀に関する研究は、育種、栽培、栄養、機能性、加工、地域資源活用など、さまざまな分野で進められています。
品種特性の解明、安定生産に向けた栽培技術の確立、栄養成分や機能性に関する知見の蓄積は、雑穀の価値を高めていくうえで欠かせない取り組みです。
また、研究成果を社会の中で実際に活かしていくためには、得られた知見を専門的な情報として蓄積するだけでなく、食品としてどのように使われ、どのように評価され、どのように継続的な利用につながるのかという視点も重要になります。
研究成果を、商品・地域・食卓へとつなげていくためには、研究と実需、研究と生活者、研究と地域活動を結びつける「社会実装」の視点が求められます。
日本雑穀協会では、これまでも資格講座を通じて、雑穀に関する知識を実務で活用できる形に整理し、研究と現場をつなぐ人材育成に取り組んできました。
今後は、こうした人材育成に加えて、研究成果を商品開発、地域での活用、食卓への提案へとつなげるための評価や橋渡しにも、当協会としてより一層取り組んでまいります。
研究成果を社会に活かすための評価軸
たとえば育種研究では、病害抵抗性、収量性、栽培適性、成熟期、脱粒性、倒伏性などが重要な評価軸になります。
これらは、生産現場を支えるうえで極めて重要な研究テーマです。安定して栽培できること、一定の収量が見込めること、産地で継続して生産できることは、雑穀を社会に供給していくための基盤になります。
その一方で、雑穀を食品として社会の中で広く活かしていくためには、「どのように使われるか」という用途適性の評価も、同じく重要な研究テーマになります。
食味、食感、香り、色調、粒感、炊飯適性、製粉適性、製パン・製菓適性、麺・惣菜・外食・給食等での利用可能性、ブレンド原料としての扱いやすさ、加熱後の状態、保存性、他素材との相性など、実際の使用場面を想定した評価が加わることで、研究成果はより社会実装に近づいていきます。
つまり、雑穀研究においては、「作りやすいか」という生産側の評価に加えて、「使いやすいか」「おいしく食べられるか」「商品化しやすいか」「継続利用につながるか」という実需側の評価も重要になります。
機能性に加えて求められる、食品としての価値
雑穀は、栄養成分や機能性の面から注目されることが多い食品素材です。
たんぱく質、食物繊維、ミネラル、ポリフェノール等の成分特性や、健康機能に関する研究は、雑穀の価値を示すうえで重要な知見となります。
しかし、食品として社会に広がっていくためには、機能性だけで価値を伝えるのではなく、実際に食べられ、使われ、続けられる形へとつなげていく視点が欠かせません。
どれほど有用な成分が含まれていても、食味や食感に課題がある場合、調理が難しい場合、価格や供給量が合わない場合、生活者にとって続けにくい場合には、日常的な利用にはつながりにくくなります。
食品としての価値は、成分特性だけで決まるものではありません。
おいしさ、使いやすさ、調理しやすさ、加工しやすさ、伝えやすさ、続けやすさ。
これらが重なってはじめて、雑穀は生活者の食卓や事業者の商品開発の中に位置づけられていきます。
その意味で、雑穀研究における社会実装には、機能性評価とあわせて、用途適性評価、官能評価、実需者評価、生活者視点での受容性評価が重要になります。
一部の評価ではなく、複数の専門的視点で見る
雑穀の価値を社会実装へつなげるためには、一部の数値や限られた評価だけで判断するのではなく、複数の視点から多面的に評価していくことが重要です。
たとえば、ある雑穀が栄養成分に優れているとしても、それが炊飯に向いているのか、製粉原料として使いやすいのか、パンや菓子に適しているのか、外食や給食で扱いやすいのか、地域商品として展開しやすいのかによって、社会での活かされ方は大きく変わります。
食味や用途適性は、単一の評価者による印象だけでは十分に捉えきれません。
雑穀について専門的に学んだ資格者や、食品開発、調理、加工、販売、地域活動などに関わる複数の評価者が、それぞれの立場から確認することで、より実用性の高い知見につながります。
評価者の属性を明確にし、評価項目を整理し、複数の視点から検証することは、研究成果を現場で活かすうえで重要なプロセスです。
こうした評価を積み重ねることで、研究成果は単なる知識やデータにとどまらず、商品開発、用途提案、地域での活用、生活者への情報発信に活かせる判断材料になっていきます。
専門的に学んだ人材が、研究と実需をつなぐ
日本雑穀協会では、雑穀エキスパートをはじめとして、雑穀を専門的に学び、実践へつなげる人材の育成に取り組んできました。
認定された資格者は、雑穀に関する基礎知識だけでなく、それぞれの立場で、食品としての使い方、調理や加工への展開、生活者への伝え方、地域での活用など、現場に近い視点を持っています。
研究成果を社会実装へつなげる際にも、このような専門的に学んだ人材が評価や橋渡しに関わることで、研究と実需の距離を縮めることができます。
その雑穀がどのような用途に向いているのか、どのように伝えれば生活者に届きやすいのかが見えやすくなります。
研究者、生産者、加工事業者、料理家、販売者、資格者、生活者。
それぞれの視点が重なることで、雑穀の価値はより具体的な形で社会に届けられていきます。
研究と実践を循環させる
雑穀の健全な普及を進めるうえで、研究と実践を切り離して考えることはできません。
研究によって得られた知見を、商品開発、食べ方提案、地域での活用、売場での伝え方、資格講座での学びへとつなげていくこと。
そして、実際の現場で得られた評価や課題を、次の研究や品種開発、商品設計、情報発信に活かしていくこと。
この循環をつくることが、雑穀研究を社会の中で生きる知見へと発展させていくために重要です。
日本雑穀協会では、資格講座、日本雑穀アワード等の評価制度、法人会員支援、産地連携、情報発信などを通じて、研究と現場をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。
知見を知識で終わらせず、商品へ、地域へ、食卓へ。
雑穀研究を社会実装へつなげる視点を大切にしながら、これからも雑穀の価値を実践へと結びつけてまいります。
関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
執筆者プロフィールはこちら
















