料理家の提案力が、雑穀の可能性を広げる

料理家の仕事は、料理をつくり、レシピを紹介することだけではありません。
商品開発やメニュー監修、企業とのコラボレーション、料理教室、講座、情報発信など、活動の場は広がっています。
そのなかで、料理のおいしさやつくり方に加えて、
「なぜ、この食材を使うのか」
「なぜ、この組み合わせなのか」
「誰に、どのような場面で食べてほしいのか」
「この料理を通じて、何を伝えたいのか」
を説明する機会も増えています。
料理をつくる技術に加えて、その意味や価値を言葉にする力。
雑穀の利用を広げるうえでも、料理家が持つこの「提案力」は、大きな役割を果たします。
これまで雑穀に関わってきた中で感じるのは、特徴や使い方を知っているだけでは、継続的な利用にはつながりにくいということです。
料理としてのおいしさを形にし、なぜその雑穀を使うのか、どのような価値が生まれるのかを、企業や飲食店、生活者に伝える。
雑穀の利用を広げるためには、こうした役割を担う料理家の存在が欠かせません。
雑穀が広がらないのは、レシピが足りないからなのか
雑穀を使ったレシピは、すでに数多く紹介されています。
雑穀ご飯、サラダ、スープ、主菜、パン、菓子など、さまざまな活用方法を、書籍やウェブサイト、SNSで見つけることができます。
しかし、雑穀が日常の料理に十分定着しているとは言い切れません。
その理由は、レシピの数ではなく、
「なぜ、この料理に雑穀を使うのか」
「雑穀を加えることで、料理がどう良くなるのか」
「ほかの食材ではなく、雑穀を選ぶ意味は何か」
が、十分に伝わっていないからかもしれません。
使い方がわかるだけでは、継続的な利用にはつながりにくいものです。
料理の中で雑穀が果たす役割や、使うことで生まれる価値まで伝わって、初めて「使ってみたい」「また食べたい」という動機が生まれます。
レシピ情報が簡単に得られる時代に
インターネットやAI技術の進展により、レシピの検索や献立の提案、食材に関する情報の入手は容易になりました。
料理名や使いたい食材を入力すれば、短時間でさまざまなレシピ案を得ることができます。
そのような時代だからこそ、情報を提示するだけでなく、選び、組み立て、料理として成立させることが重要になります。
・食材の特徴を見極め、料理の目的に応じて素材を選ぶ
・おいしさが成立する組み合わせを考え、食べる人や場面に合わせて提案する
・なぜその料理を提案するのかを、わかりやすい言葉で説明する
料理家の専門性は、こうした部分にこそ表れます。
雑穀を扱う料理家には、素材を学ぶことが欠かせない
雑穀を料理に使うためには、調理方法やレシピを知るだけでは十分ではありません。
雑穀は、種類によって食感や風味、色、粒の大きさ、加熱したときの変化が異なります。
同じ雑穀でも、品種や産地、精白や加工の方法によって、料理への生かし方が変わることがあります。
そのため、雑穀を扱う料理家には、
「どのような特徴を持つ素材なのか」
「どのように生産され、加工されているのか」
「加熱や調理によって、どのように変化するのか」
「どのような食文化や地域との関わりがあるのか」
を学ぶことが求められます。
素材への理解がなければ、雑穀を料理に加えることはできても、その特徴を十分に生かすことは難しくなります。
素材について学ぶことで、料理の目的に応じた雑穀や調理方法、組み合わせを選べるようになります。
なぜその雑穀を使うのか、料理によってどのような価値が生まれるのかも、自分の言葉で説明できます。
雑穀料理における提案力は、表現力だけで生まれるものではありません。
素材を学び、特徴を理解することが、料理として生かし、社会へ伝えるための土台になります。
料理家は、素材の価値を伝える「翻訳者」
農産物には、それぞれ異なる特徴や背景があります。
生産者にとって大切な特徴であっても、そのままでは食品企業や飲食店、生活者に価値が伝わらないことがあります。
例えば、
「この地域で栽培されている」
「栄養面に特徴がある」
「やさしい甘みがある」
「噛み応えのある食感を持っている」
という情報だけでは、実際の料理や商品をイメージしにくい場合があります。
そこで必要になるのが、素材の特徴を、食べる人に理解できる形へ置き換えることです。
「どのような料理に合うのか」
「どのように調理すると、特徴が生きるのか」
「既存の料理に、どのような変化を加えられるのか」
「誰に、どのような価値として届けられるのか」
こうした内容を、実際の料理と言葉で示すことです。
料理家は、生産者が持つ素材の情報を、企業や飲食店、生活者に届く形へと翻訳する存在でもあります。
雑穀は、料理を設計できる素材
雑穀というと、食物繊維やミネラルなど、栄養面の特徴が特に注目されがちです。
しかし、雑穀の価値は栄養だけではありません。
アワ、キビ、ヒエ、タカキビ(ソルガム)、ハトムギ、アマランサス、キヌアなど、それぞれに異なる食感、風味、色、形があります。
ぷちぷち、もちもちとした食感。
香ばしさや、穀物らしいコク。
料理の印象を変える色や粒の存在感。
これらの特徴を理解して使うことで、雑穀は料理に明確な役割を持つ素材になります。
「健康によいから加える」だけではなく、
「食感に変化をつける」
「香ばしさやコクを加える」
「料理に食べ応えを持たせる」
「見た目に粒の存在感を加える」
「地域の農産物や食文化を伝える」
このように考えることで、その雑穀を選ぶ理由が生まれます。
素材の特徴に役割を与えることで、雑穀は料理全体の中で意味のある存在になります。
雑穀を加えることと、生かすことは違う
雑穀を料理に入れれば、それだけで魅力が伝わるわけではありません。
量が多すぎれば、料理全体の食感や味の調和を損なうことがあります。
反対に、少量を加えただけでは、その特徴や使う意味が感じられないこともあります。
大切なのは、
「主役として使うのか、脇役として使うのか」
「粒のまま使うのか、粉や加工品として使うのか」
「食感を残すのか、料理になじませるのか」
「既存の料理を補うのか、新しい料理をつくるのか」
を考えることです。
同じ雑穀でも、調理方法や組み合わせる食材によって、料理の中で果たす役割は変わります。
特徴を知り、料理の目的に応じて使い方を選ぶことで、単なる「雑穀入り」ではなく、雑穀を使う必然性のある料理になります。
提案力が、雑穀の利用を動かす
料理がおいしいことを前提として、その料理を提供する理由や、雑穀を使う意味まで整理されていれば、企業の商品や飲食店のメニューとして提案しやすくなります。
料理家の提案力は、料理そのものの価値を高めるだけではありません。
生産者が育てた雑穀を、企業や飲食店、生活者へとつなぎ、新しい使い方や商品、市場を生み出す力にもなります。
雑穀の価値を、社会に伝わる形にする
雑穀は、食感、風味、栄養、地域性、食文化など、複数の価値を持つ素材です。
だからこそ、雑穀を通じて料理を考えることは、一つの食材の使い方を覚えるだけではありません。
素材の特徴を見極め、その役割を料理として表現し、価値として伝える力を養うことにもつながります。
食をめぐる関心は、健康やおいしさだけでなく、地域農業、食文化、食料を取り巻く課題、持続的な生産へと広がっています。
ただし、こうした社会的なテーマを料理に結びつけるときも、理念だけを語るのではなく、食べる人が「おいしい」「また食べたい」と感じられることが欠かせません。
料理家には、食材の背景や特徴を理解し、無理なく、おいしい料理として表現する役割があります。
その料理がなぜ生まれたのかを、生活者や企業、地域の人たちに伝わる言葉で示すことも大切です。
知識は、料理を難しく説明するためのものではありません。
自分の感覚や経験を整理し、相手に応じた言葉で、わかりやすく伝えるための軸になるものです。
雑穀を学び、料理の提案力へつなげる
雑穀を料理に生かすためには、レシピだけでなく、種類ごとの特徴や栄養、加工、調理方法、食品表示、食文化など、素材を多面的に学ぶことが大切です。
こうした基礎知識があることで、料理の目的に合った雑穀を選び、その雑穀を使う理由や価値を、自分の言葉で説明できるようになります。
日本雑穀協会が実施する「雑穀エキスパート講座」では、雑穀の種類や特徴、栄養、調理、食品表示など、雑穀を扱ううえで必要となる基礎知識を体系的に学びます。
料理家をはじめ、商品開発やメニュー提案、料理教室、食育、食に関する情報発信に携わる方にとっても、雑穀への理解を深め、自身の活動に生かすための学びとなります。
料理を「つくる」ことから、その意味や価値まで「伝える」ことへ。
料理家が雑穀を学び、その特徴を料理に生かし、言葉で伝えることは、自身の活動をレシピ提供から価値提案へと広げます。
そして、生産者が育てた雑穀を、企業や飲食店、生活者へとつなぎ、継続的に使われる機会を生み出すことにもつながります。
料理家の提案力には、雑穀の利用と可能性を広げる力があります。
雑穀を体系的に学び、料理に生かしたい方へ
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関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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