雑穀を、一皿の物語へ

『夢二カフェ 港や』で味わった、夏の「涼しき甘酒」

先日、東京・文京区にある『夢二カフェ 港や』を訪れました。

弥生美術館・竹久夢二美術館に併設されたカフェで、竹久夢二の作品世界を感じながら、食事や喫茶を楽しむことができます。
東京大学の歴史ある弥生門の斜め前にあり、訪れた際には、学生と思われる方の姿も見られました。

どこか懐かしさを感じる店内に身を置き、周辺を行き交う現代の学生たちを眺めていると、竹久夢二が生きた明治から大正、そして昭和初期へと、自然に思いが広がります。

学問の歴史が息づく場所と夢二の世界が重なり、ひととき時代を越えたような感覚を味わえるカフェです。

今回のお目当ては、夏の期間限定メニュー「涼しき甘酒」。

雑穀クリエイター田中雅子さんがプロデュースした「ヘルシーエイジングミレット 自由が丘ブレンド」を使用した、雑穀入り甘酒とあずき麹のシャーベットです。

「健康」より先に、おいしさがある

実際に味わって、まず感じたのは、雑穀甘酒のシャーベットとしての完成度の高さでした。

雑穀や甘酒、あずき麹と聞くと、健康を意識したデザートを思い浮かべるかもしれません。

しかし、「涼しき甘酒」は、健康によさそうという印象よりも先に、
一つのデザートとして、素直に「これは、おいしい!」と感じられる味わいでした。

自然な味わいは暑い季節に心地よく、食べ終えた後にも穏やかな余韻が残り、雑穀の魅力が生かされていました。

竹久夢二の世界と調和する一皿

「涼しき甘酒」の魅力は、味わいだけではありません。
ハート形に仕上げられたシャーベット、銀箔のきらめき、竹久夢二の詩と絵を使ったしおり。

その一つひとつが、夢二作品から感じられるやわらかさや抒情性、どこか懐かしくロマンチックな雰囲気とよく調和しています。

「涼しき甘酒」という名前も、単に冷たい甘酒であることを説明するだけでなく、夏の静かなひとときや、涼やかな情景を思い浮かばせます。
雑穀入り甘酒とあずき麹のやさしい味わいも、夢二カフェという場所に自然になじんでいました。

料理やデザートは、味だけで成り立つものではありません。

名前、形、器、添えられる言葉、提供される場所。それぞれが結びつくことで、その場でしか味わえない一皿になります。

雑穀という素材が竹久夢二の世界と出会うことで、健康や栄養という枠を超え、文化や物語を感じるデザートになっていました。

雑穀の使い方を広げる

雑穀を使った料理というと、雑穀ごはんやサラダ、スープなどを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、雑穀は、甘酒などの発酵食品や菓子、冷たいデザートにも活用できます。

雑穀それぞれの特徴を理解し、その素材がどのような料理に向いているのかを考え、新しい食べ方として形にする。
今回の「涼しき甘酒」から、雑穀に対する深い理解と提案力が伝わってきました。

今回のメニューでは、

「暑い季節に味わう、ひんやりとした甘酒」
「ハート形に仕上げた愛らしい見た目」
「銀箔による華やかさ」
「竹久夢二の詩と絵を使ったしおり」
「美術館に併設されたカフェという場所」

が、一つの物語として結びついています。
おいしさや季節感、竹久夢二の世界観を通じて、雑穀の魅力を伝えているといえます。

一皿から始まる、雑穀との出会い

美術館を訪れた方や、近くで学び、研究する方が、カフェのメニューをきっかけに雑穀と出会う。
こうした出会いも、雑穀の利用を広げる大切な入口です。

最初は、期間限定の夏のデザートとして何気なく注文し、味わった後に、雑穀や甘酒、あずき麹が使われていることを知る方もいることでしょう。

「体によいから食べる」だけではなく、
「おいしかったから、また食べたい」
「使われている素材について、もう少し知りたい」

と思ってもらうこと。

その積み重ねが、雑穀を一時的な健康素材ではなく、日々の食文化として根づかせることにつながります。

今回の「涼しき甘酒」は、ほかではなかなか出会えない味わいでした。
歴史ある弥生の地で、竹久夢二の世界を感じながら味わう、涼やかな雑穀甘酒シャーベット。

駅から少し坂を上ってでも、訪ねた甲斐がありました。
夏の間に、もう一度味わいたいと思います。

 

執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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