防災食、備蓄、そして食料安全保障を考える

地震や台風などの自然災害が発生するたびに、日頃の備えの大切さを改めて感じます。
もし今、電気や水道が止まり、食料の供給が滞ったら、私たちの暮らしはどうなるのでしょうか。
防災というと、自然災害への備えを思い浮かべます。しかし、食料について考えるとき、もうひとつ忘れてはならない問題があります。それは、日本の食料供給をいかに安定して確保していくかということです。
農林水産省が公表している2025年度(概算)の日本の食料自給率は、カロリーベースで37%、生産額ベースでは66%です。
依然として低い水準にあるカロリーベースの食料自給率は、私たちの食生活が海外からの食料供給に大きく依存している現状を示しています。
2025年4月1日には「食料供給困難事態対策法」が施行されました。世界的な不作や輸入の減少などによって、食料供給が大幅に減少する事態に備え、政府が早い段階から必要な対策を講じるための法律です。
自然災害への備えだけでなく、食料を安定して確保することも、私たちの暮らしを守る重要な課題になっています。
自然災害と食料安全保障の両面から備えを考えるとき、雑穀にはどのような役割があるのでしょうか。
最低3日分、できれば1週間分の食品備蓄
農林水産省では、家庭での食品備蓄について、最低3日分、できれば1週間分を人数に応じて用意することを推奨しています。
大規模な災害が発生すると、道路や物流網が寸断され、食品が店舗に届かなくなることがあります。また、被災地への支援物資が届くまでに、数日以上かかる場合もあります。
そのため、各家庭で一定期間の食料を確保しておくことが大切です。
米や乾麺などの主食、缶詰やレトルト食品、野菜の加工品などを組み合わせ、栄養のバランスにも配慮します。また、飲料水や調理用の水、カセットコンロなどの熱源も必要です。
特に、災害直後は調理ができない可能性もあるため、加熱せずに食べられる食品を備えておくことが重要になります。
日常の食卓から始める、ローリングストック
食品備蓄というと、特別な非常食を購入して保管することを思い浮かべるかもしれません。
しかし、日常の食生活と結びつけた「ローリングストック」という方法があります。
普段から食べている食品を少し多めに買い置きし、賞味期限を確認しながら古いものから使い、消費した分を補充していく方法です。
特別な食品だけを備えるのではなく、食べ慣れた食品を利用できることが特徴です。
雑穀食品も、日常的に利用していれば、ローリングストックに取り入れることができます。
ただし、乾燥した雑穀を調理するには、水と熱源が必要です。
保存できる食品であることと、災害時にすぐ食べられる食品であることは、必ずしも同じではありません。
食品加工が広げる、雑穀の可能性
このような課題に対応する方法のひとつが、食品加工技術です。
例えば、非常食として利用されているアルファ化米は、水やお湯を加え、一定時間置くことで食べられる食品です。また、レトルト加工によって、常温で保存でき、温めずにそのまま食べられる食品もあります。
実際に、日本雑穀アワードの金賞受賞商品にも、ローリングストックに適した雑穀食品があります。
株式会社はくばく「じっくり煮込んだ牛骨コムタン粥」や「生姜香る鶏だし粥」などは、雑穀を使用したレトルト食品です。
どちらも常温で保存でき、加熱せずにそのまま食べられることから、日常の食事だけでなく、災害時の備蓄食品としても活用できます。
なお、株式会社はくばくでは、過去に別のもち麦入りレトルト食品が、一般社団法人防災安全協会主催の「災害食大賞2022」ローリングストック部門で最優秀賞を受賞した実績もあります。
また、株式会社ヒガシマルの「体にやさしい五穀スープ あっさり和風塩味」(2026年金賞)は、国産雑穀を使用し、お湯を注いで約1分で食べられる商品です。熱湯の確保は必要ですが、日常的に利用しながら備蓄することのできる食品のひとつです。
もちろん、雑穀を使った加工食品だけで必要な栄養素をすべて補えるわけではありません。ほかの食品との組み合わせも大切です。
普段からおいしく食べられるものが、もしものときにも役立つ。
そこに、雑穀の特徴を生かし、おいしさと保存性、手軽さを兼ね備えた食品開発の可能性があります。
食料の輸入が滞る、そのときに備える
防災への備えを、もう少し広い視点から考えてみましょう。
日本では、小麦や大豆、とうもろこしなど、多くの主要農産物を海外から輸入しています。
世界的な異常気象による不作、国際紛争、輸出規制、海上輸送の混乱などが発生すれば、輸入量の減少や価格の上昇につながる可能性があります。
家庭で数日分の食品を備えることは大切ですが、それだけでは長期的な食料供給の問題に対応できません。
長期的な食料供給の問題に対応するには、国内で食料を生産し続けることと、海外から安定的に調達することの両方が重要です。
こうした中で、雑穀には非常食としての利用だけでなく、国内で生産できる穀物の種類を増やし、食料供給の選択肢を広げる役割も期待できます。
かつて雑穀は、それぞれの地域の自然条件や食文化と結びつきながら、人々の暮らしを支えてきました。
しかしながら、現在の国産雑穀の生産規模で、米や小麦などの主要穀物の不足を補うことは困難です。
だからこそ、食料供給を特定の穀物や調達先に過度に依存しないためにも、多様な穀物の生産を維持することには意味があります。
備蓄だけでは守れない、生産する力
食料安全保障を考えるうえで、忘れてはならないことがあります。
それは、食料を生産し続けられることです。
種子が残っていること。栽培技術を持つ生産者がいること。収穫した雑穀を乾燥・調製し、品質を守る設備や技術があること。
そして、生産された雑穀を食品として利用する仕組みがあること。
これらは、必要になってから短期間で整えられるものではありません。
また、国産であっても、栽培に必要な肥料や燃料などを海外に依存している場合があります。国内生産を維持するには、こうした生産資材の安定確保も重要です。
雑穀の生産基盤を守ることは、地域の農業や食文化を守るだけでなく、将来の食料供給の選択肢を残すことにもつながります。
いつもの食卓と、もしもの食卓
国産雑穀を選び、食べる人がいることは、生産を続けるための需要につながります。
生産者が安心して栽培でき、食品企業が新しい商品を開発し、それを消費者が日常的に利用する。
こうしたつながりが、国内の雑穀生産を支える基盤となります。
いま食べるための雑穀を備えること。そして、将来も雑穀を生産できる環境を守ること。
この二つは、別々の話ではありません。
災害時に食べる食品を備えることも、国内で食料をつくり続けられる環境を維持することも、私たちの食を守る取り組みです。
いつもの食卓と、もしもの食卓。
その両方を支えるために、雑穀に何ができるのか。
防災食と備蓄を入り口に、雑穀の持つ可能性を、改めて考えていきたいと思います。
関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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