失敗事例から学ぶ、地域づくりの第一歩

私はこれまで、全国各地の雑穀産地における地域振興の取り組みに関わってきました。
取り組みの目的は、地域によってさまざまです。
昔から地域で栽培されてきた雑穀を復活させる。
遊休農地を活用して新たな作物を育てる。
地域の農産物を使った特産品を開発する。
飲食店や観光施設を通じて、地域の食文化を伝える。
雑穀には、こうした幅広い活用の可能性があります。
一方で、数年後には生産量が減少したり、開発した商品が販売されなくなったり、活動そのものが終了してしまったりする事例も見受けられます。
地域ごとに生産条件や人員、予算、販売環境は異なりますが、日本雑穀協会の活動を通じて各地の取り組みに接する中で感じるのは、継続が難しくなる事例には、いくつかの共通点があるということです。
今回は、代表的な失敗例を取り上げながら、小規模産地だからこそ大切にしたい地域振興の考え方を整理します。
例1:雑穀を作ることが目的になってしまう
「昔からこの地域で作られていた雑穀だから、もう一度復活させてみよう」
「遊休農地を活用し、新しい地域作物として栽培してみよう」
こうした考えは、活動を始める大切なきっかけになります。
しかし、栽培そのものが目的になると、収穫後に問題が表面化します。
誰が購入するのか。
家庭用か業務用か。
粒、粉、加工品のどの形で販売するのか。
地域内で使うのか、地域外へ販売するのか。
生産者と購入者の双方が継続できる価格はいくらか。
こうした点を検討しないまま栽培を始めると、販売先が見つからず、在庫を抱えることになります。
また、雑穀は収穫すれば、すぐ販売できるものではありません。
乾燥、脱穀、選別、異物除去、精白、保管、包装など、商品にするまでには多くの工程があります。
地域内に必要な設備がなく、遠方への輸送や加工によって費用が膨らむこともあります。袋詰めして販売できても、調理方法が伝わらず、継続購入につながらない場合もあります。
雑穀を作ることは、地域振興の目的ではありません。
誰に、どのような価値を届けるのか。収穫後に、どのように使い、販売するのか。栽培を始める前から、その先の流れを考える必要があります。
例2:補助事業で終わってしまう
補助事業は、栽培試験、機械導入、商品開発、パッケージ制作、イベント開催など、新しい挑戦を後押しする大切な仕組みです。
一方で、補助期間中の活動だけに意識が向き、その後の継続方法が検討されていないことがあります。
補助金で商品やパンフレットを作っても、翌年度以降の製造費や販売促進費を確保できなければ続きません。試食会に多くの人が集まっても、日常的な販売場所がなければ購入にはつながりません。
また、行政職員や外部専門家が中心となって進めた場合、担当者の異動や支援期間の終了によって、活動の中心を担う人がいなくなることもあります。
事業終了後は、誰が生産し、注文や在庫、発送、販売先との連絡を担うのか。必要な経費をどのように生み出すのか。
補助事業を活動のゴールとするのではなく、自立した取り組みを始めるためのきっかけとして活用することが重要です。
例3:特産品を作っただけで終わってしまう
地域振興では、雑穀を使った菓子、パン、麺、レトルト食品などの商品開発に力が注がれることがあります。
魅力的な商品は重要ですが、一つの商品が完成しただけでは、地域全体の活性化にはつながりません。
原料を安定して供給できるのか。
誰が製造を続けるのか。
どこで、誰に販売するのか。
繰り返し購入される商品になっているのか。
これらが明確でなければ、完成発表会では注目されても、その後の販売は続きにくくなります。
飲食店で提供される。
学校給食で使われる。
宿泊施設や観光施設のメニューになる。
収穫体験や料理教室に活用される。
地域の行事で継続して紹介される。
このように、地域のさまざまな場所や人によって使われてこそ、雑穀は地域資源として育ちます。
商品開発はゴールではなく、地域内の新たなつながりを生み出す出発点です。
「量」ではなく「価値」を育てる
小規模産地が、大産地と生産量や価格だけで競争することは容易ではありません。小ロットの調製や加工では、原料一キログラム当たりの費用も高くなりやすくなります。
しかし、小規模であることは、必ずしも弱みではありません。
昔、地域ではどのように雑穀を食べていたのか。
なぜ栽培を復活させたのか。
どのような人が生産を担っているのか。
地域の飲食店では、どのように活用しているのか。
こうした歴史や食文化、人の思いは、その地域だからこそ伝えられる価値です。
また、生産者、加工事業者、料理人、販売者の距離が近く、使い手の意見を栽培や加工に反映しやすいことも、小規模産地の強みです。
改善を重ねながら、地域に合った商品や食べ方を育てることができます。
大産地と同じ方法で競うのではなく、小規模産地だからこそできる関係づくりと価値づくりを考えることが大切です。
雑穀を通じた地域振興を考える六つの視点
雑穀を地域資源として活かすための考え方を、雑穀アドバイザー講座の中でお伝えしています。
基本となるのは、次の六つの視点です。
1.地域の目的を明確にする
農業所得の向上、遊休農地の活用、食文化の継承、特産品開発、観光振興など、目的によって取り組み方は変わります。例えば、食文化の継承であれば、地域での栽培や利用の歴史、受け継がれてきた品種や種子を確認する必要があります。観光振興であれば、土産品だけでなく、飲食店のメニューや農業体験も考えられます。
何のために雑穀に取り組むのかを明確にし、関係者で共有することが出発点です。
2.地域資源を見つめ直す
雑穀だけでなく、地域の自然、歴史、食文化、人材、加工技術、飲食店、学校、観光施設などにも目を向けます。
郷土料理を知る人、商品開発に関心を持つ料理人、食育に取り組む栄養士、農村体験を受け入れる施設など、一つひとつの資源を組み合わせることで、地域ならではの取り組みが生まれます。
3.地域全体で活用する
生産者が栽培し、加工事業者が使いやすい原料に整える。料理人や食品事業者が商品にし、小売店や観光施設が販売する。学校や行政、住民も、それぞれの立場で関わる。
同時に、誰が全体を調整し、価格や納品方法、品質管理、情報発信を担うのかを明確にする必要があります。
4.継続できる仕組みをつくる
生産、調製、保管、加工、販売、発送には、それぞれ費用と労力がかかります。
売れ残った在庫を誰が負担するのか。販売価格から生産者や加工事業者へ、どの程度を還元するのか。注文が増えた場合に対応できるのか。
活動を一部の人の善意や無償の労力だけに頼らず、継続に必要な費用と体制を具体的に考えることが重要です。
5.地域ならではの価値を育てる
小規模産地では、単に「希少な雑穀」と伝えるだけでは十分ではありません。
地域に残る食文化、生産者の工夫、栽培を復活させた背景、新しい料理や商品、学校や住民とともに進める活動など、その土地で作る意味を具体的に伝える必要があります。
同時に、品質、おいしさ、使いやすさ、購入しやすさを整え、繰り返し選ばれる価値へ育てていくことが大切です。
6.最後は「人」であることを忘れない
どれほど立派な計画や商品があっても、それを動かし、伝え、次の世代へつなぐのは人です。
熱意を持って取り組む人がいること。
支える仲間がいること。
生産者、事業者、行政、住民が話し合える場があること。
新しく加わった人も意見を言えること。
一人の熱意から始まった活動も、その人だけに仕事や責任が集中すれば、長くは続きません。情報や役割を共有し、複数の人が関われる体制をつくる必要があります。
立場によって求めるものは異なります。生産者は適正な原料価格を求め、加工事業者は仕入れやすい価格と扱いやすい品質を、販売者は消費者に選ばれる商品を求めます。
それぞれの立場を理解し、対話を重ねながら、共通の目的を確認することが欠かせません。
こうした六つの視点を一つずつ確認することで、雑穀を作ることだけにとどまらない、持続的な地域振興の形が見えてきます。
雑穀を通じた地域振興とは、雑穀を作ることや、商品を一つ完成させることだけではありません。
雑穀をきっかけに地域の魅力を見つめ直し、人と人をつなぎ、その土地ならではの価値を育てていくことです。
雑穀は、地域振興の目的そのものではなく、地域の未来をつくるための一つの手段です。
そして、その取り組みを動かし、育て、続けていく中心にいるのは、いつも「人」なのだと思います。
関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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