キヌア市場の現在地と、これからの商品化

輸入量の減少と価格上昇から考える、日本市場への提案

キヌアの商品化はなぜ広がらないのか 穂と粒

キヌアは、南米アンデス地域を原産とする作物です。

栄養面の特徴などから世界的に注目され、日本でも一時期、「スーパーフード」の代表的な存在として広く紹介されました。
しかし現在、日本でキヌアを使用した商品を見かける機会は、ブームの頃と比べて少なくなったように感じられます。商品化されている場合も、サラダや健康志向の惣菜、素材にこだわったシリアルなど、一部のカテゴリーが中心です。

世界ではキヌア市場の成長を予測する調査がある一方、日本では、必ずしも利用が広がっているとはいえません。
そこで今回は、日本のキヌア市場の現在地と、これからの商品化について考えます。

ブームで知られたが、日本の食卓には定着しなかった

キヌアは、日本で古くから食べ継がれてきた穀物ではありません。
米、大麦、ソバ、アワ、ヒエ、キビなどと比べると、どのように調理し、どの料理に使えばよいのかが、直感的にわかりにくい食材です。

国連が定めた2013年の「国際キヌア年」やスーパーフードブームによって認知度は上がったものの、次のようなハードルを十分に越えられなかったと考えられます。

✔ 家庭でどのように調理するのか。
✔ 日常の献立にどう取り入れるのか。
✔ 家族で継続して食べられるのか。
✔ 価格に見合う価値をどこに感じるのか。

結果として、キヌアは「知られていない食品」から、「知っているけれど、日常的には買わない食品」になったのかもしれません。認知が広がっても、食べる場面や使い方が生活の中に残らなければ、継続的な市場にはつながりません。

データで見る現状:輸入数量は減少し、単価は上昇

日本で流通するキヌアの大部分は、ペルーやボリビアなどからの輸入に頼っています。

財務省貿易統計によるここ数年の輸入量を見ると、2021年と2022年の485トンを直近のピークとして、その後は減少しています。
2025年は369トンとなり、直近のピークである2021年、2022年の485トンと比べて、約24%減少しています。

輸入量には、企業の在庫調整や調達時期なども影響するため、そのまま国内消費量と一致するとは限りません。
しかし、日本で流通するキヌアの大部分を輸入に頼っていることを踏まえると、少なくとも国内需要が力強く拡大している状況ではないことを示す材料になります。

一方、輸入単価は大きく上昇しています。

2020年に1kg当たり374.0円だった輸入単価は、2026年1月から4月までの平均で604.1円となり、約1.6倍の水準に達しています。
日本のキヌア輸入では、数量が減少する一方、価格上昇によって輸入金額が押し上げられています。輸入金額だけを見ると、利用が拡大しているように受け取られることがあります。
しかし、これはキヌアを食べる人や商品が増えたことによる成長ではなく、原料コストの上昇によるものと捉えられます。

変化する用途と、すでに定着した競合素材

店頭では家庭用の粒商品を見かける機会が減る一方、グラノーラやシリアルバー、菓子など、健康を意識した加工食品の素材として利用される例が見られます。

キヌアの利用は、家庭で粒を調理する形から、食品企業が食べやすく加工して届ける形へ、重心が移りつつあると考えられます。
しかし、健康志向の商品を企画する際には、すでに定着した素材との競争があります。

大麦の中でも、もち麦は食物繊維を特徴とする素材として広く認知されています。オーツ麦も、オートミール、グラノーラ、シリアルバー、飲料など、多くの商品カテゴリーで利用されています。

これらの素材は、健康面の特徴が伝わりやすく、商品、レシピ、製造ノウハウもすでに積み重ねられています。食品企業にとって、商品企画から製造、販売までの見通しを立てやすい素材です。
その中で、価格が上昇し、製造現場でも一定の加工を必要とするキヌアを採用するには、「なぜ、もち麦やオーツ麦ではなく、キヌアなのか」という明確な理由が必要です。

独特の食感、見た目、栄養面の特徴、産地など、キヌアだから生み出せる価値を具体的に示すことが、商品化の前提になります。

健康価値だけでは、幅広い消費者に届きにくい

キヌアは、「体によさそう」という印象はあっても、

おいしいから食べたい。
いつもの食事に取り入れたい。
繰り返し購入したい。

という動機までは、十分に育っていないように思われます。

健康価値だけで購入を促しても、その商品がおいしく、使いやすく、価格に納得できるものでなければ、継続的な利用にはつながりません。

キヌアを使うことで、味、食感、見た目、料理にどのような違いが生まれるのか。
その価値を、消費者にも商品開発担当者にも具体的に示すことが必要です。

利用は、プレミアム商品やトッピングを中心に

現在、日本でキヌアを比較的見かけるのは、サラダや健康志向の惣菜、素材にこだわったプレミアムな価格帯のシリアル、グラノーラ、栄養補助食品などです。

キヌアの小さな粒やプチプチとした食感は、サラダや惣菜のトッピングに適しています。見た目にも特徴があり、少量でもキヌアを使用していることが伝わりやすいという利点があります。
一方で、利用場面がプレミアム商品やトッピングに限られると、キヌアは、健康を強く意識するときに選ぶ、少し特別な素材という位置づけから抜け出しにくくなります。

一般的な価格帯のシリアルバーや加工食品では、原料価格の上昇により、キヌアの採用や配合量を維持しにくくなっていると考えられます。
そのため、今後は安価な一般商品で大量に使うことだけを目指すのではなく、キヌアの特徴と価格の理由を説明できる商品を育てることが重要です。

大きなブームではなく、価値を明確にした市場へ

キヌアが、かつてのスーパーフードブームと同じ形で再び広がることは、容易ではありません。

家庭での調理に手間がかかること、輸入価格が上昇していること、もち麦やオーツ麦などの代替素材が定着していることを考えると、誰もが日常的に購入する大きな市場を目指すことは難しく思われます。

しかし、キヌアの可能性が失われたわけではありません。
どのような人に、どのような価値を届けるのかを明確にすることが、これからの市場づくりに求められます。

そこで、日本でキヌアの商品化を進めるために、五つの方向を提案します。

提案1 キヌアを使う理由が伝わる商品をつくる
単に健康素材として配合するのではなく、独特の食感、見た目、栄養面、産地など、キヌアだから生まれる価値を明確にします。
一般的な商品への幅広い使用だけを目指すのではなく、価格の理由まで説明できるプレミアム商品の展開も重要です。

提案2 健康より先に、おいしさをつくる
健康への関心が高い人だけでなく、幅広い消費者が「おいしいから、また食べたい」と思える商品を目指します。
キヌアを目立たせることだけでなく、商品の味や食感を高める素材として活用する視点も必要です。

提案3 商品開発に使える情報と加工原料を整える
適した用途、配合量、食感、加工方法、原料コストなど、食品企業が採用を判断できる情報を示します。
また、粒だけでなく、洗浄済み、加熱済み、粉、パフ、フレークなど、製造現場で使いやすい加工形態を増やすことも重要です。

提案4 小さな商品化から実績をつくる
地域限定商品、期間限定メニュー、通販、飲食店などで試作と販売を行い、消費者の反応を確認しながら商品を育てます。
最初から大きな市場を目指すのではなく、実際に受け入れられる味、用途、価格を見つけることが現実的です。

提案5 国産キヌアは、産地名と原料の特徴を伝える
国産キヌアは、輸入品との価格競争ではなく、産地、品質、地域食材との組み合わせを生かした商品として展開することが考えられます。
その際には、単に「国産キヌア使用」とするだけでなく、とかちNOBUKOブレンドにおける「十勝キヌア」のように、産地名や原料の特徴を商品名や説明の中で積極的に伝えることも重要です。

どこで育てられたキヌアなのかがわかれば、原料そのものへの関心が生まれ、地域や生産者の取り組みを知ってもらうきっかけになります。
国産キヌアを目立たない配合原料で終わらせず、商品の価値をつくる素材として紹介することが必要です。

国産キヌアに挑戦する生産者を応援したい

国産キヌアの産地では、前例が少ない中でも、熱意ある生産者の方々が、栽培や商品化に向けた試行錯誤を重ねています。
日本での栽培には、地域に合った品種や栽培方法の検討に加え、収穫、選別、加工など、さまざまな課題があります。

それでも、キヌアを地域の新しい作物として育て、その価値を届けようと挑戦を続けています。

国産キヌアを応援することは、単に「国産だから選ぶ」と呼びかけることだけではありません。
おいしい食べ方や商品を生み出し、産地名や原料の特徴とともに、その価値をわかりやすく伝え、継続的な利用へつなげることが大切です。

日本雑穀協会としても、市場情報や商品化事例を紹介し、国産キヌアの価値と可能性を伝えることで、生産者の挑戦を応援していきたいと考えています。

量の拡大だけではない、キヌアの健全な普及へ

キヌアの普及を、輸入量や商品数を増やすことだけで捉える必要はありません。
高価な原料でありながら、理由がわからないまま少量配合され、やがて別の素材へ置き換えられてしまうのであれば、持続的な市場とはいえません。

キヌアの特徴が商品の中で生かされ、その価値がわかりやすく伝えられ、消費者が納得して繰り返し選ぶこと。
国産キヌアであれば、産地や生産者の取り組みも含めて評価され、継続的な生産につながること。

こうした流れをつくることが、キヌアの健全な普及につながります。

目指すべきなのは、誰もがキヌアを買う一時的な大ブームではありません。
キヌアを、一度試して終わる珍しい健康食品から、明確な価値を持ち、必要とされる穀物素材へ。

大きなブームでなくても、価値を理解する人や企業に繰り返し選ばれる、継続的で確かな市場を育てていくことが、これからのキヌア普及に求められています。

 

執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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