ほうきもろこしが生み出す、もうひとつの暮らしの道具

先日、地元近くの新百合ヶ丘で開催されたマルシェを訪れた際、手作りのもろこし箒(ほうき)を販売しているお店に出会いました。
並んでいたのは、もろこしの穂を丁寧に束ね、色鮮やかな糸で編み上げられた箒たち。
材料は「ほうきもろこし」。私たちが食用として親しんでいる高きびの仲間です。
お話を伺うと、神奈川県愛川町で、材料となるほうきもろこしの栽培から箒の製作までを手がけているとのことでした。
雑穀といえば、ごはんやパン、お菓子など、食べ物としての利用を思い浮かべることが多いものです。
しかし、この一本の箒から、改めて雑穀の持つ多様な可能性を感じました。
雑穀は、食べることだけに利用されているわけではないのです。
食べること、箒になること
ほうきもろこしは、食用の高きびと同じ「ソルガム/モロコシ」です。
高きびは穀粒を食用に利用しますが、ほうきもろこしは、穂から長く伸びる枝の部分を箒の材料として利用します。
成長すると草丈が2~3メートル以上になるものもあり、先端には長い穂をつけます。
その穂には適度なしなりとコシがあり、細かなごみやほこりを掃き集めるのに適しています。
同じモロコシの仲間でも、植物の特徴によって、利用される部分や役割が異なるのです。
約150年の歴史を持つ愛川町の箒づくり
神奈川県愛川町中津地区には、約150年にわたる箒づくりの歴史があります。
明治時代から箒づくりが盛んになり、かつては地域の農家でもほうきもろこしが栽培され、箒の製作が地域を支える産業のひとつとなっていました。
しかし、電気掃除機の普及や生活様式の変化によって、箒の需要は減少し、伝統的な箒づくりも次第に衰退していきました。
それでも、地域に伝わる技術を受け継ぎながら、現代の自然な暮らしに合った箒を製作する取り組みが続けられています。
今回、マルシェで出会った箒も、材料となるほうきもろこしを種から育て、収穫し、乾燥させ、一本一本、手作業で仕上げられたものです。
自然の植物であるため、穂の長さや太さ、色合いはそれぞれ異なります。
その違いを生かしながら形を整えることで、手作りならではのやさしい風合いの箒が生まれます。
植物を育てる農業の技術と、素材を生かす職人の技術。
一本の箒には、長い年月をかけて受け継がれてきた、人の知恵と工夫が込められています。
今の暮らしにも生きる、自然素材の道具
電気掃除機が普及した現在でも、箒には箒ならではの良さがあります。
電気を使わず、気づいたときにさっと掃除ができること。大きな音を立てずに使えること。そして、使う場所や目的に合わせて、さまざまな形に仕立てられることです。
小さな箒で机の上を掃いたり、柄の長い箒で床を掃いたり。
今回購入した小さな箒も、今この記事を書いているパソコンのキーボード掃除に活躍しています。
キーの隙間にたまった細かなほこりを、やさしく掃き出してくれるので、とても重宝しています。
自然素材ならではの風合いや、手仕事による美しさも魅力です。
また、植物を栽培して道具をつくり、手入れをしながら長く使うという考え方は、資源を大切にする暮らしにもつながります。
新しい技術によって暮らしが便利になる一方で、昔から受け継がれてきた道具にも、今なお役立つ知恵が残されています。
雑穀が持つ、もうひとつの価値
雑穀の魅力を考えるとき、栄養やおいしさ、健康への働きなど、食品としての特徴に目が向きがちです。
もちろん、それらは雑穀の大切な価値です。
あわせて、植物としての雑穀に目を向けると、さらに幅広い可能性が見えてきます。
ソルガムの仲間には、穀粒を食料に利用するものだけでなく、茎や葉を家畜の飼料に利用するもの、茎から糖液を得るもの、そして穂を箒などの材料にするものがあります。
こうした多様な利用方法は、人々が植物の特徴を知り、暮らしの中で生かしてきた結果でもあります。
雑穀は、食料として人々の命を支えるだけでなく、地域の産業や伝統文化、人々の暮らしとも深く関わってきたのです。
一本の箒から広がる、雑穀の世界
今回、マルシェで出会ったもろこしの箒。
そこには、雑穀の持つ多様な可能性と、地域で受け継がれてきたものづくりの文化がありました。
一粒の穀物から、食べ物を思い浮かべる。
その視点を少し広げてみると、穂や茎、葉にも、それぞれの役割があることに気づきます。
食料を生み出す植物が、暮らしを整える道具にもなる。
雑穀を知ることは、食べることだけでなく、植物と人との多様な関わりを知ることでもあります。
さまざまな用途に広がる雑穀の可能性についても伝えていきたいと思います。
関連情報:雑穀エキスパート講座/日本雑穀アワード/法人会員制度
執筆:中西 学(一般社団法人日本雑穀協会 事務局長)
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